のぶひろくんのお世話 保育は誰でもできる仕事?

※この文章の中に出てくる名前は、私の名前以外は全て仮名です。

本日は、のぶひろくんのお世話をさせて頂きました。

のぶひろくんは、まだ0歳児。もうすぐ1歳になる子だ。

私のおっさんレンタルのページで書いている通り、通常であれば、私は0歳児の子は預からない方針だ。しかし、お母さんが切迫して困っているようだったので、今回はお預かりした。

依頼者様との会話

のぶひろくんのお母さんとは、最初に喫茶店で会った。ここから先、このお母さんのことは「依頼者様」と記述する。

LINEで「0歳児を預かってもらえませんか?」という内容のお問い合わせがあり、相当にお困りの様子だったので、まずは、おっさんレンタルの「話し相手」の枠でお話を聞くことにした。

聞くと、この依頼者様は、いわゆるワンオペ育児に陥っているようだった。お父さんは居るけれど、仕事が忙しくて時間をあまり切り出せていないらしい。依頼者様のご両親は、既に亡くなっている。お父さんのご両親とは、人間関係がうまく行っていない。保育園にも落ちた。だから、依頼者様が育児のほとんどすべてを引き受けている。

ベビーシッターさんをたまに雇ってもいるけれど、平日昼間に動ける人は、なかなか見つからないらしい。

この依頼者様も逃げ場がないのだ。0歳児となると、預かる人も限られるのだろう。

私は、保育の専門教育を受けていない。でも、この依頼者様だって、特殊な訓練を受けているわけではない。それでも、毎日育児をしているのだ。

依頼者様は、お子さんを叩きたくなることもある、と、涙を流しながら語った。この依頼者様は追い詰められている。

私の保育スキルは、自分の子を育てた経験のみだ。専門的スキルはない。現状の保育業界の常識で言えば、私はゼロ歳児であるこの子を預かるべきではないのだろう。

けれど、お預かりしている間、お子さんを見守って、何か異変があったらしかるべきところに連絡する、というくらいのことはできるように思った。そして、この依頼者様には、ほんの少しだけでも休養が必要であるように感じた。

私は、お引き受けすることにした。

1回目のお預かり

初めてのゼロ歳児の子のお預かりだ。万全を期すために、最初は依頼者様が居る場で、お子さんと一緒に過ごすことにした。

お子さんの名前は、のぶひろくん。ハイハイとつかまり立ちはできるけれど、まだ歩くことはできない、という感じだ。

依頼者様は、さまざまなことを私に話した。

まず、今、家族そのものの愛犬が亡くなりそうであるらしい。私は犬や猫を飼ったことがないので、その悲しさがどれほどのものなのか、よくわからない。しかしともかく、目の前の依頼者様は憔悴し、また、追い詰められているようだった。

その愛犬のために動物病院に行きたいけれど、のぶひろくんが居るから、病院に長居ができない。それをもどかしくお感じになっているようだった。そのために、のぶひろくんを憎く感じることがある、とも話された。

前述の通り、依頼者様は義両親さんと関係が悪い。だから、気軽にのぶひろくんを預けられない。預けたら、嫌味を言われたり、自分たちの家族の生活に介入されたりする。辛い選択だ。依頼者様は、ワンオペ状態を受け入れることを決断していた。

しかし、やはり苦しいものは苦しいのは明らかだ。だからこそ、私みたいな、ベビーシッターと名乗っている怪しいおっさんに声を掛けるに至ったのだろう。

のぶひろくんのお世話は、率直に言うと、簡単だった。のぶひろくんは、まだ喋ることもできないから、私はただ単に見守るだけだ。家の中は、のぶひろくんが転んでも大丈夫なように、床にやわらかいマットが敷き詰められ、机の角もゴムで覆われていた。おもちゃもふんだんにあり、のぶひろくんはそれらのおもちゃでずっと遊んでいた。

保育、という仕事に対するイメージは、人によって大きく違うと思う。高尚な仕事だと思っている人もいれば、簡単な仕事だと感じている人もいる。

実際のところ、「保育」という言葉の中にはさまざまな仕事があり、専門性が高く求められる部分もあれば、誰でもできる部分もあるように思う。

以前、堀江貴文氏が「保育士の仕事の給料が安いのは、誰にでもできる仕事だからだ」というような発言をして炎上した。

保育士の仕事全体を括って「誰にでもできる仕事」だと言ったのなら、それは確かに間違いだと思う。でも、堀江氏はそういう意図で言ったのではない、と私は思っている。

保育の仕事は、ものすごくザックリ言うと、2つの仕事に分けられると思う。1つ目は、お子さんの安全確保。2つ目は、お子さんの教育だ。

そしてたぶん、前者は比較的簡単で、後者は難しい。

子育てで消耗している親は、とにかく休む時間が欲しい、と感じていると思う。つまり、安全確保だけでも満たせれば、お子さんを預けたいと思っている人は多いはずだ。

のぶひろくんの家は、マットもあり、机の角も覆われており、環境としても万全であるように感じた。私の低いスキルを、環境が補ってくれている。安全確保なら、できそうだ。

次のお預かりも、お受けすることにした。

2回目のお預かり

2回目のお預かりの際には、依頼者様は外出し、私とのぶひろくん二人で3時間ほどを過ごすことになった。お家に伺い、おむつとおしりふきのありかを教えてもらった。ちょうどミルクの時間であったので、ミルクを依頼者様に作ってもらい、私はそれを受け取った。その後すぐ、依頼者様は申し訳なさそうに家を出た。

のぶひろくんは、ギャン泣き。まあ、そりゃそうだろう。依頼者様は、ワンオペ状態だった。ということは、のぶひろくんから見れば、お母さんが居ない環境というのは、ほとんど経験したことがないはずだ。

私は、ギャン泣きするのぶひろくんを、傍観していた。物理的に抱っこするとか、何かすることはできるけれど、何をしても逆効果になるだろうという感覚があった。10分に一度くらいの頻度で、のぶひろくんにおもちゃを見せてみたが、しばらく反応は変わらなかった。

一時間ほど経って、ひらめいた。私は、自分のバッグからパソコンを出して、仕事を始めてみた。私はプログラマーなので、パソコンを常にバッグに入れている。私の息子が小さいとき、私がパソコンをいじっていると、すぐに寄ってきた。のぶひろくんもそういう行動を取るのではないか、と思ったのだ。

のぶひろくんをチラチラと見ながらプログラムを書き始めた。そうすると、魔法のように、ほんの3分ほどで、のぶひろくんは泣き止んだ。私の方に寄ってきて、パソコンのキーをいじりだす。良かった。これでコミュニケーションが取れる。

パソコンをすぐに画面ロック状態にして、しばらく好きにいじらせてあげていた。

まだゼロ歳児ということで、どうしても少しキーボートによだれがたれてしまう。垂れては拭く、を5分間ほど繰り返して、ひとまずパソコンをバッグに戻した。

そこからは、のぶひろくんはご機嫌だった。ほぼ泣くことなく、他のおもちゃで遊んでくれた。

私はずっとのぶひろくんを見ていたけれど、特段、何かをするわけでもなかった。たまにおもちゃを出して音を出してみるとか、そういうことはした。でも、のぶひろくんはあまり私の行動に注目することなく、好きなおもちゃで遊んでくれていた。

たまにグズったりすることもあったので、抱っこしてみたのだが、のぶひろくんは私の抱っこが嫌いなようだった。逃げようとして脚を突っ張ったので、すぐに降ろした。うーん。まだ私への信頼度は低いようだ。

それでも、おもちゃで遊ぶのぶひろくんは本当に可愛く、見ていて飽きなかった。今は、なんでも口に入れる時期らしく、何度かおもちゃを口に入れていた。衛生上は良くないだろうけれど、これはのぶひろくんが日常的にやっていることだろうし、止めたら泣いてしまうだろうから、私はそれを見ているだけにしておいた。

[speech_bubble type="std" subtype="R1" icon="m.jpg" name="私"]それ、おいしいの?[/speech_bubble]

[speech_bubble type="std" subtype="L1" icon="k.jpg" name="のぶひろくん"]・・・[/speech_bubble]

のぶひろくんは、まだ話すことができる年齢ではないから、答えが返ってくるわけがないと私も理解している。でも、何かを話しかけるのは、赤ちゃんの成長にとって良い影響があるはずだ。そう考えて、のぶひろくんが何かをするたびに話しかけた。

のぶひろくんが、おもちゃ箱をひっくり返す。

[speech_bubble type="std" subtype="R1" icon="m.jpg" name="私"]ありゃ~、散らかっちゃったねえ。[/speech_bubble]

のぶひろくんは、出てきたおもちゃで遊ぶ。私はそれを見ながら、散らかったおもちゃを箱に戻す。

のぶひろくん

のぶひろくんが、キッチンの方にハイハイしていく。

[speech_bubble type="std" subtype="R1" icon="m.jpg" name="私"]そっちに何があるの?[/speech_bubble]

のぶひろくんは、私を見ながら、離乳食の空き箱で遊んでいた。

のぶひろくんが、椅子の上によじ登る。

[speech_bubble type="std" subtype="R1" icon="m.jpg" name="私"]大丈夫?落っこちない?[/speech_bubble]

この時はちょっと危ないなと感じたので、抱っこして下に降ろした。ちょっと泣かれちゃったけど、まあ正しい判断だろう。

このお宅の防御体制は完璧だった。床はマットが敷いてあるし、あらゆる収納にはロックが掛かり、簡単には開かないようになっている。だいたいのお宅では、赤ちゃんがいろんなものを散らかしてしまうことへの防御として、そういうことをしていると思う。

私は、のぶひろくんから目を離さなかったけれど、ベビーシッターの業務としては、全く辛くなかった。責任は重大だが、これだけきちんと体制が整っていれば、赤ちゃんへの対処はだいたいどうにかなる。

なにより、のぶひろくんは自分で遊んでくれるから、見守っていさえすれば、のぶひろくんの安全を確保することは、それほど難しいことではないように感じた。もちろん、預かる側のモラルはかなり問われるが、普通の人格の人であれば、安全確保という意味では、大抵の人が概ね問題なくできる仕事であるように思えた。

3時間が経ち、依頼者様が帰ってくると、のぶひろくんは再びギャン泣きした。やはり、依頼者様が恋しいのだろう。そりゃそうだ。よくわからないおっさんと過ごした3時間、のぶひろくんは心細かったろう。

でもお母さんにも用事があるから、たまの数時間は、申し訳ないけれど、いろんなシッターさんとかおっさんとかでガマンしてくれ。たぶんその方が、お互いの幸せのためなのだよ。

お別れ

私はその後すぐの時間帯に、本業の仕事の用事を入れていた。挨拶もそこそこに急いでお宅を後にした。

やはり、小さい子は可愛い。そして、今回も一応、依頼者様の休む時間を作れたと思う。おっさんがベビーシッターをするのは、たぶん正しい。その考えを新たにした。

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