かえでちゃんのお預かり

※この文章に登場する名前は、私の名前以外は全て仮名です。

本日は、かえでちゃんのお世話をさせて頂きました。

プチ整形の間のお世話

私のLINEへ、おっさんレンタルCEOの西本さんから連絡があった。ゼロ歳児の子のお世話をしてくれる人を探しているとのこと。私はベビーシッターをしたくておっさんレンタルに登録しているから、うってつけの依頼だ。

依頼者様とLINEで繋がり、話す。依頼者様はプチ整形をしたいとのことで、その整形手術の間、お子さんを預かっていて欲しい、というご依頼だった。いわゆる美容整形手術だ。

美容整形手術。依頼者様にとっては重大な決断だろう。プチ整形と仰っていたから、たぶん大手術ではないのだと思う。でも、自分の見た目を変化させるというのは、それぞれの決断者ご自身にとっては重い意味を持つはずだ。

ベビーシッターという形ではあるが、私みたいな縁もゆかりもないおっさんがそこに立ち会って良いものだろうか。もっと、依頼者様ご自身にとって重要な意味を持つ人が立ち会うべきのような気もする。

一方で、プチ整形とは言え整形だから、友人などには気軽にお願いもしづらいという面もあるのだろう。女性のシッターさんなどにも、頼みづらそうだ。そう考えると、なんの繋がりもない中年男性である私は適任であるようにも思える。

整形、という言葉に対しての反応は、人によって大きく違う気がする。何も問題ない、と言う人もいれば、絶対にやるべきではない、と言う人もいる。

私は、整形手術についてはネガティブなイメージを持っていない。自分の体は自分のモノなのだから、自分の自由にして良い、というのが私の基本的な考え方だ。その意味でも、今回のこのお仕事は、私は適任であるように感じた。

お預かり

待ち合わせは、美容整形外科の医院が入っているビルの一階だった。依頼者様が、ベビーカーを押してやって来た。予約の時間まであまり余裕がなかったので、お預かりする赤ちゃんへの飲み物、代えのおむつ、おしりふきなどが揃っているかを先に確認した。そのまま、エレベーターに乗って受付へ向かった。

お預かりする赤ちゃんの名前は、かえでちゃん。生後6ヶ月ほどの子だ。

かえでちゃんはお母さんが大好きのようで、依頼者様が医院の受付をするためにベビーカーから2メートルほど離れると、それだけで泣き出した。まあそりゃそうだ。見慣れたお母さんが少し離れた場所にいて、目の前には初めて見るおっさんがいる。かえでちゃんにとっては恐怖だろう。

しかし、これはかえでちゃんにとって乗り越えなくてはならない壁だ。親が常に子に縛り付けられていたら、親は疲弊する。疲弊した親は、どうしても子に辛く当たる場面が増えてしまう。ある程度、負荷分散するのが正しい道だ。

依頼者様は、かえでちゃんに後ろ髪を引かれる様子のまま診察室に入った。

かえでちゃんの様子

かえでちゃんは、私が預かっている間、ずっと泣いていた。でも、大泣きという感じではなく、ずっとグズっているという感じ。いわゆるギャン泣きではなく、ふえーん、ふえーん、という感じで泣いていた。

かえでちゃんは抱っこが好きなようだった。私が抱っこすると、泣いてはいたけれど、泣き声は少し弱まるようだった。どちらのほうが良いのかな、と思い、待合室の椅子に座ってもらってみると、泣き声が大きくなった。

私も、赤ちゃんを抱っこするのは大好きだ。その意味では、私とかえでちゃんは、良いマッチングだったと言えるかもしれない。お預かりしている間は、ずっと抱っこして過ごした。

運良く、この時間帯には、他にお客さんは居ないようだった。医院の方が気を使って、その旨を教えてくれた。おかげで、安心してお預かりすることができた。

抱っこしたまま、医院の中の通路などをうろうろと歩く。かえでちゃんはずっとぐずりながら、不思議そうに医院の中をきょろきょろと眺めていた。

かえでちゃん

ゆっくり歩いていると、依頼者様が診察室から出てきた。これから手術だからちょっと様子を見に来たのかな、と思ったら、なんともう手術が終わって出てきたらしい。ほんの20分ほどのお預かりだった。

喫茶店にて

戻ってきた依頼者様は私に、ありがとうございました、と言ってくれた。このお仕事をすると、皆さんに感謝してもらえる。本当にありがたい。

お代を頂いているのだからお礼を言って頂く必要はないのですよ、と思いつつも、やはりそういう言葉を頂けるのは本当に嬉しい。この仕事をやって良かった、と、心の底から感じることができる。

依頼者様は、少し話をしたい、と、私を喫茶店に誘ってくれた。おっさんレンタルの世界に興味を持っていらっしゃるようだ。私はもちろんOKした。

レンタル中の飲食代は、依頼者様が全て負担するのがおっさんレンタルのルールだ。申し訳無さを感じつつも、そのルールをお伝えする。依頼者様は、もちろん、と言って承諾してくれた。

喫茶店に入る。私はカフェインが苦手で、コーヒーを一杯でも飲むと眠れなくなってしまう。申し訳ないのですが、と言い添えて、50円ほど割高なカフェインレスのブラックコーヒーをお願いした。

喫茶店では、さまざまなことを話した。

依頼者様の旦那さんは、依頼者様よりかなり年上で、何度か離婚を経験しているらしい。そして、依頼者様ご自身も、離婚について考えることがあるそうだ。

何度か離婚を経験している、というと、悪いイメージが浮かぶかもしれない。しかし裏を返せば、それだけたくさんの女性の心を掴んだ人だということだ。少なくとも魅力的な人ではあるのだろう。

私は離婚を経験してはいないが、自分の家族についてはいくつか、マイノリティ的な属性がある。例えば、娘が妻の連れ子であることや、私が自分の意志で家族の元を離れ、会社の近くに住んだことなどだ。

それらを批判する人は、実際、それなりに存在した。でも、私には私の理屈がある。私の中では、それらは正しい選択だったと結論付けている。

結局、一緒に過ごしたい人と一緒に居れば良いだけなのだ、と思う。

家族、という名称に縛られながら家族を維持している状況は、不幸だ。

家族というのは、目的ではなく結果であるのが望ましい。まず、一緒に居たいと思った人と時間を過ごす、と心に決める。その結果、一緒に過ごした人を家族と呼べば良い。

そんなことを考えながら、「今一緒に居たい人と一緒に居ればいいだけなんじゃないかな、と思います。」とお話した。それが旦那さんなら旦那さんを選べば良いし、そうでないなら離れても良いのではないか、と言い添えた。

もちろん、現実は様々な条件が複雑に絡み合っている。それを解きほぐすのは簡単なことではない。これから依頼者様は、それに挑んでいくのだ。

難しい選択だけれど、少なくともこの依頼者様は、現実から逃げていない。離婚という選択肢を、取り得る選択肢として頭に入れている。それは、勇気が要ることだ。そういう勇気があるこの依頼者様は、きっと良い選択をするだろう。

男性ベビーシッターの悩みについて

私からも、ひとつ質問があった。男性が女の子のオムツ替えをする時に直面する問題だ。「割れ目に指を入れてウンチを掻き出して良いのか問題」である。

私は、幸か不幸か、女の子の赤ちゃんのオムツ替えをしたことがない。だから、この問題に直面したことがない。今日も、かえでちゃんはウンチをしなかったので、この問題を回避できた。しかし、いつかはぶつかるだろう。

この問題の正解は明らかだ。掻き出すべきだ。

掻き出さないということは、ウンチを放置するということだ。皮膚がただれてしまう。体内にウンチが入って行ってしまう可能性も無くはないだろう。どう考えても掻き出すべきだ。それが正解であることは明らかだ。

しかし、どんなに正解が明らかであったとしても、それをするには親の承諾が要るような気がする。でも、承諾を求めるためにそれに言及したら、言及したこと自体に不安を抱く親もいらっしゃるだろう。

だからといって、割れ目の中のウンチは放置します、と言ったら、それはそれで親御さんはお怒りになるだろう。何も言わずに、当然の前提だと認識して淡々と処置するのが正しいのかもしれない。

私の質問を聞いた依頼者様も、やはり、この問題に対する明快な対処策を持っていないようだった。しかし、その現実がわかっただけでも私にとっては収穫だ。他の男性ベビーシッターはどうしているのだろうか。もしかしたら、私が方針を打ち立てるべき課題なのかもしれない。

かえでちゃんの笑顔

私と依頼者様が話をしている間、かえでちゃんは、依頼者様の席の脇に、ベビーカーに乗って座っていた。

時折、ニコッと笑う。まだゼロ歳、しかもハイハイもできないような小さい子なのに、ハッキリとした笑顔を見せる子は珍しいのではないだろうか。こんなに可愛く笑うゼロ歳の子は見たことがない、とお伝えした。かえでちゃんの笑顔は、本当に、心底、とびきり可愛かった。

知らないおっさんと二人になって、不安だったよね。でも、たまにはお母さんもお父さんもお休みが必要だから、許しておくれ。少し泣くくらいで勘弁してくれて、ありがとう。

お別れ

喫茶店は、駅ビルの1階にあった。報酬を頂き、喫茶店を出た。依頼者様はビルの中の他の階に用事があるそうなので、エレベーターを出たところでお別れした。

かえでちゃんを抱っこできて、私は心底満足だった。この仕事を続けたい、と、改めて感じた。ありがとうございました。

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